ひねくれ作家様の偏愛
「海東くん」


寝ていないことはわかったので、ベッドの横に立ち、見下ろす形で声をかけた。


「残念だったね」


しばらく間があり、海東くんのくぐもった声がシーツの間から聞こえた。


「あっさり言いますね」


「会議はまた半年後にある。そこを目指そう」


海東くんは突っ伏して黙っていた。

レーベルとして小さい『ともし火』の単行本出版会議は半年に1回。
連載検討会議も兼ねる。

彼の書いた小説は今回の出版会議で落選した。

『ともし火』連載も見送り。

先ほど会議が終わり、結果を受けて私は海東くんのもとへ急行したのだ。


「海東くん」


私は彼の顔を覗き込もうと身をかがめた。
髪に触れようかと思ってやめる。
せめて、声をかけたくて、精一杯穏やかな声で彼を呼ぶ。

気を引き立たせようと思ったわけじゃない。
ともかく、ここまで張り詰めていたものを緩めてほしかった。
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