ひねくれ作家様の偏愛
海東くんの頭がぐっと上がった。
両手をベッドにつき、勢い良く身体が起き上がる。そして、長い腕が私の身体を押しのけた。
よろめく私には目もくれず、彼は寝室を出て行く。

慌てて後を追うと、リビングで大きな窓に向かって立つ海東くんがいた。


「会議を通すのがあんたの仕事だろ」


唸るような低い声。
私が何か答える前に、海東くんが顔をめぐらせ、ぎっと睨みつけてきた。


「何が半年後だよ」


「今回は候補作が多かったんだ。あと一押しできなかったことは私の責任。だけど、海東くんの作品は一定の評価を得ている。連載の話も出たそうだよ。上の判断はボツだけど、うちの鈴村編集長も、『ともし火』の木原編集長も『海東智の復活を信じたくなった』って感心してた。次回作を期待してるって」


私がどれほど言葉を尽くしても、海東くんの心には響かないようだった。
今回の会議に、彼が持てるすべてをかけてきたことが、私にはわかる。


「少なくとも契約打ち切りなんて話はなくなった。及第点だと思う」


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