ひねくれ作家様の偏愛
とうとう、私の肩をつかんでいた海東くんの手から力が失せた。
私は彼の両手を肩から下ろし、胸の前で強く握った。


「もう一回、始めから頑張ろう。一緒に」


海東くんの俯いた顔。
前髪の隙間から、唇が震えるのが見える。


「桜庭さん……」


そこから先、海東くんは声にならなかった。

泣くのを見せたくないらしく、そっと私の肩に顔を埋める。
私はためらわずその頭を抱いた。

しばらく、私たちは無言で抱き合っていた。
海東くんと出会って初めて感じる充足感だった。
静かで穏やかで心地よいお互いのぬくもり。

やがて海東くんが頭を持ち上げた。
私が腕をゆるめると、涙の残る瞳がこちらを見つめている。
ものすごく照れているらしく、顔は真っ赤だし、視線の行き場をなくしている。


「桜庭さん」


「なに」
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