ひねくれ作家様の偏愛








「遠いところをわざわざありがとうございます」


女性……海東くんのお母さんはお茶を私の前に置き頭を下げた。

白髪交じりの長い髪をひとつにひっつめてまとめているけれど、面差しの優しい綺麗な人だ。
若い頃は海東くんのようにモデル系の美人さんだったんじゃなかろうか。

海東くんの手足がすんなりと長いのは、お母さんの遺伝に見える。


「担当さんにお迎えに来ていただくなんて、相変わらずご迷惑ばかりおかけしているんですね。あの子は」


お母さんが困った顔で微笑む。

私も苦笑いで返すしかない。

結論からいって、海東くんはやはり実家には戻っていなかった。
ではどこにいったのだろうと考えるけれど、それよりご家族にうまい言い訳を考えてこなかったことに慌てる。

私がした説明は『私のミスで海東先生のご機嫌を損ねてしまった』『新連載のことで、どうしても連絡をつけたいけれど連絡がつかない』『もしやと思い、ご実家まで捜索にうかがった』というもの。

幸い、優しそうなお母さんは変な勘ぐりもせず、私の名刺を受け取り「お世話になっております」というだけだ。

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