ひねくれ作家様の偏愛
すると海東くんが身体を反転させる。
左手が素早く私の手首を捉えた。

反射的に抗おうと腕に力を入れたけれど、できなかった。
海東くんが眉根を寄せ、苦悶に近い表情をしていたからだ。


「あんたは黙って俺の原稿を運んでください。後は俺の仕事です。口出さないで」


海東くんの顔を見つめた。
強気な文句とは裏腹に、声調はそれほど拒絶的には響かない。
手を握られているからだろうか。

166センチの私より10センチ少々上にある彼の瞳は、真っ赤に充血していたけど、真剣な色を映していた。

海東くんの向こう、窓の外にお台場の観覧車が見える。
動かない観覧車。

彼は窓辺に逃げてしまう時、いつもこれを見ているのかもしれない。
夢を運ぶ小さな箱たち。

妙な光をたたえた海東くんの瞳を見つめ、私に頷く以外の道は無かった。

拘束された左手首に視線を移す。
海東くんがようやく指を緩めたので、逃れて腕を胸に引き寄せた。
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