君のために歌う歌
郷愛と一緒だったので気づかなかったが、知らない人の中をぬって歩き、知らない空間にいることはなかなか緊張することだなと、宙子は思った。




なんとかドリンクコーナーにたどり着くと、小さいバーカウンターの中には、前髪を真ん中で分けた肩くらいのロン毛で口にピアスがあいているお兄さんがいた。



宙子は恐る恐るドリンクチケットを出すと、たくさん書いてある知らないカクテルの名前の隅の見慣れた名前、コーラを注文した。


お兄さんは素早い手つきでグラスに綺麗な氷をたくさん入れると、手元にある謎のノズルを握りコーラを注いだ。



「はい。どうぞ。」




物腰は見た目より柔らかく、宙子はなんとなくホッとした。




「ありがとうございます。」



冷たいグラスを受け取った宙子は、落ち着ける場所を探したが、テーブルのあるところはもう人で埋まっていて、壁際の座れそうなところも埋まっていた。




ズッと、ひとくちコーラをすする。


冷たさと炭酸が喉にしみた。



照明が暗くなり、ステージ上が照らし出されると、四人組のバンドが現れた。


拍手とともに、バラけていた観客が少しだけステージに近寄った。



宙子は隙を逃さずに目立たない壁際に移動した。
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