ごめん、好きすぎて無理。






『紗奈は陸が好き、そう分かった瞬間、紗奈を好きっていう気持ちより紗奈を陸に奪われたくない、そう思う気持ちの方が勝ってたと思う。


 だから婚約話も早めた、陸に奪われないうちに、そう、思ってたけど…。

 紗奈がさっき目を覚ました時、俺を見て“陸”って呼んだよな?

 あれですぐに分かった、紗奈の心には陸しかいない、そう…ね…』







どこに視線を合わせているのか分からない海を俺はただじっと見つめる。



紗奈も海をじっと見つめていて、紗奈のお父さんもお母さんもじっと見つめていた。









『紗奈、結婚はなしにしよう。
 紗奈の陸を想う気持ちに俺の気持ちは勝てない。
 
 紗奈、兄貴を、頼む』





そう言って、海は微笑んだ。







海、お前は本当に名前の通りに、どこまでも優しく包み込む、そんな奴だな…。




俺には出来なかったこと、お前は出来る、いや俺と紗奈のために、そうしてくれた。










“ありがとう”


“ごめん”


“約束する、紗奈は俺が幸せにする”



どの言葉から言えばいい?


どの言葉から言えば、海を少しでも苦しみから救ってやれる?








『…………海君、ごめんね。
 でも、陸のこと、任されたよ…』





そう、紗奈が言ったー…








『海、ごめん……。
 紗奈は海と居た方が幸せになれたと思う。

 でも、それ以上に紗奈を幸せにする。
 お前に認めてもらえるように紗奈と努力する、だから……ありがとう』





俺は、そう、海に返事をした。
















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