大人の恋はナチュラルがいい。
1DKの部屋はとにかくキッチンの広さと使いやすさを重視しているので、凝ったインテリアも女らしい飾りっ気も清清しいほど無いシンプルなものだ。けれど、家で翌日のランチの下ごしらえや焼き菓子を作ったりする以上、半分職場でもある意識から部屋の清潔感は頑なに保っている。
そんな私の部屋を初めて訪れた太一くんは、住居の半分を占めるキッチンスペースや本棚にずらりと並ぶレシピブックなどを
「これがヒヨコさんの部屋かあ。すごい、プロっぽい」
など感嘆の息を漏らし博物館にでも来た様な好奇心いっぱいの目で眺めていた。
さすがにバイトゥーイは手に入らなかったものの、せめて雰囲気だけでもとアイスジャスミンティーに氷を浮かべてテーブルの前に座った太一くんへ差し出す。「ラクにしててね」と言い残しキッチンへ向かった私は早速買ってきた材料を袋から取り出し、考えていた献立の手順に従って下ごしらえを始めた。
ふたつの鍋に湯を沸かしながら、ナンプラーやココナッツミルクを使い簡易的ではあるがトムヤムクンのペーストを作っていく。次いで殻をむき背腸を取った海老を片方の鍋でボイルし、その間に舞茸やレモンを手早くカットした。最後に飾るパクチー以外の材料を全てひとつの鍋にまとめたところで、今度はソムタムとガパオに使う野菜を片っ端から刻んでいく。
人参、インゲン、ピーナッツ、それからパプリカに――と、調子よく包丁を動かしていたところで。
「すげー。やっぱプロだなあ」
「ひゃっ!」
ふいに後ろから声を掛けられ、私は大きく肩を跳ねさせてしまった。危ない危ない、すっかり調理の世界に没頭してしまっていた。うっかり包丁を持っていた手を滑らせそうになってヒヤリとしたのは、私の肩越しに手元を覗き込んできた太一くんも一緒だったみたいで、「脅かしちゃってゴメン」とすぐさま一歩後ろへと身体を遠ざける。