大人の恋はナチュラルがいい。

「ヒヨコさんは夢ってある?」

「夢?」

「そう、将来の夢……て、もう叶えてるか。ヒヨコさんは立派なカフェのオーナーだもんね」

「そんな、まだまだだよ。もっとメニューも充実させたいしお客さんにだって沢山来て欲しい」

 言葉を紡ぐ私に優しい目で大きく頷くと、太一くんは正面の窓に顔を向けた。その眼差しは窓の外、高く広がる空に向けられてるように見える。

「俺はね、独立して自分の事務所を持つことがずっと夢だったんだ」

 どこか誇らしげに、朗々とした声で彼は語った。自分の軌跡と未来の展望と、そのふたつに自信があるから胸が張れる夢なのだと思ったけど、『だった』と過去形で結んだのがなんだか気になる。

「でもね、最近少し夢の形が変わった。変わったって言うか……贅沢になった」

「贅沢?」

「そう」

 窓の外に向けていた視線を一旦こちらに移し、意味深さを含んだ笑みを向けてから太一くんは再び空を見上げた。

「独立したらバリバリ仕事取って来てこのオフィス街で1番の行政書士事務所にするんだ。それでいっぱい金も貯めて……いつかは自社ビルを持つ」

「自社ビル?それは盛大な夢だね」

「まだまだ、ここからが本番。自社ビルを持ったらうちの事務所以外はテナントにして貸し出すの、業務の提携がしやすいよう経営コンサルタントとか弁護士とかに。……それで、1階にはヒヨコさんの【Apaiser】に入ってもらうんだ」
 
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