大人の恋はナチュラルがいい。
バカみたいに泣き続ける私に太一くんは戸惑っていたけど、やがてギュウッと包むように抱きしめると子供を慰めるみたいに「落ち着いて」と頭を撫でてくれた。しばらくして号泣が止み、ヒックヒックと嗚咽をあげるようになると太一くんはゆっくり身体を離して大きな手で涙の痕を拭いながら穏やかに尋ねる。
「何があったの?ちゃんと話して」
静かにコクリと頷くと私は色気無く鼻を啜り上げてから、ポツポツと言葉を紡ぎ出した。ひとりで抱えて苦しすぎた問題を、嗚咽につっかえながら言葉に託す。上手くまとめられなくて聞き辛かったかもしれない、けれど太一くんは1度も目を逸らす事なくずっと黙って聞いてくれていた。
「私、仕事辞めたくない。ここまで頑張ってきたんだもん、太一くんと同じ夢を描きたいんだもん、あきらめたくない。でも、太一くんとの間に出来た赤ちゃんを堕ろすなんて出来ないよ。大好きな人との間に授かった命だもん、どうしても産んであげたいの」
どこまでも情けない私の吐露。計画的な人生を歩んでこなかったくせに、仕事も子供もあきらめられない欲張りで。本当に29年間も何やってきたんだろうと悲しくなってくる。そして、そんな情けない年上の女に太一くんはどれほど呆れているのかと思うと彼の表情を見るのが恐かった。滲んでいる涙でボヤける視界をわざと拭わずに、直視するのを躊躇っていた。すると。
「馬鹿」
ものすごくストレートに罵られた。呆れられるかもしれない、嫌われるかもしれないとは恐怖していたけど、まさかこんなに直球な二文字でくるとは夢にも思わなかったので、あまりの衝撃に思い切り目を見開いてしまった。
その反動で目に膜を張っていた涙が零れ落ち、私の視界をクリアにする。開けた視界にまっすぐ飛び込んで来たのは……眉を顰め悔しそうに私を見据える太一くんの顔だった。