大人の恋はナチュラルがいい。
目から鱗と言うんだろうか、暗雲が張れると言うのだろうか、ロンドンの霧の如く胸を覆っていた不安が嘘みたいに晴れていく。自分では考えもしなかった、思いつきもしなかった。誰かに頼っていい事が、太一くんと頼りあっていい事が、こんなに頼もしいなんて。
「……子育てしながら、仕事も続けられる……?」
「当たり前でしょ。世の中そうやって頑張ってる人は男も女もいっぱいいるよ」
泣き濡れてた顔がじわじわと綻んでいくのが自分でも分かった。ウオータープルーフだけど何度も手で拭ったせいでグチャグチャになってる目元が、嬉しくて細められていくのを感じる。
「やっと笑った」
絶対に見るに耐えない状態であっただろう私の笑顔を、それでも太一くんは嬉しそうに受けとめてくれた。おどけるように私の頬を両手でふにふにと包み、そのまま自然にキスをひとつ落とす。そして。
「こんな大変なこと、ひとりで抱えさせてゴメンね。でも、泣くほど悩んででも俺との子供産みたいって言ってくれたの、凄く嬉しかった」
ああ、やっぱり。こんな時でも太一くんは私の“女”をまたひとつ目覚めさせてくれる。『彼との子を授かって良かった』と私に心の底から思わせる、母性を目覚めさせる甘い一言をくれるのだった。
自分の台詞にどこか照れくさくなったのか、太一くんは頬からパッと手を離すとテーブルに置かれすっかりぬるくなったペリエに口を付ける。そして炭酸水を嚥下してから、照れくさそうに波打つ口元に手を当てて
「婚姻届け取りにいかなくちゃね」
と、私に向かって目を細めた。
「そうだね。あ、でもその前に……産婦人科に行かなくちゃ」
「えっ。まだ行ってないの?」
何気なく答えた返事に、太一くんは驚いて瓶の蓋を閉める手を滑らせた。クルクルと虚しく空回りする円柱を止めてしばし唖然としたあと「今から行こう」と、颯爽とパソコンを立ち上げ夕方でもやっている産婦人科を探し出した。