大人の恋はナチュラルがいい。
診察室から真っ赤な顔をしてフラフラと出てきた私を見て、太一くんは早足でこちらへ駆け寄ってきた。
「大丈夫?診察大変だった?椅子座ろうか」
「ぜ、全然平気なのでお気遣いなく」
心配そうに私の身体を支えてくれる彼に私はどうやってこの事実を告げたらいいんでしょう。恥ずかしいやら申し訳無いやらで発熱発汗している顔を覆い「た、太一くん……あのね……」と蚊が鳴くような声を絞り出し耳元で告げると、太一くんの表情がハニワみたいになった。
「……ほ、本当に?」
「はい……お騒がせしました……ごめんなさい……」
待合室の隅でコソコソと怪しい会話をしていた私たちは、太一くんが顔を覆ってその場にしゃがみこんでしまったので、ますます注目される事となる。大きな手の隙間からのぞく顔は茹でダコのように見事な赤で、頭から湯気が出そうなほど彼は静かに羞恥に悶えていた。
「……なんか俺、すっかり父親になる気でいて……名前どうしようとか早めに家買わなきゃとか色々想像しちゃって、頑張るぞってすっごい気合入れてて……うわー恥ずかしい……」
「ごめん、ほんとーにゴメン」
真っ赤な顔をして人生最大の恥ずかしさに耐える私たちの周りは温度さえ上がっていたのではなかろうか。真剣に悩んだからこそ、太一くんの決意が感激するほど嬉しかったからこそ、馬鹿馬鹿しい早とちりが物凄く恥ずかしい。
会計を済ませ無言で向かった駐車場は、すっかり夕暮れの橙に染まっている。迂闊すぎる自分にすっかり落ち込み俯いていた私だったけど、車に乗り込む直前「ヒヨコさん」太一くんは運転席側からこちらへ呼びかけて言った。