赤いエスプレッソをのせて
「これまでの経過を見ても、どうとも言えない状況へ陥ってきてます。――ですから、黒井さん。ここでひとつ決めてもらってもよろしいですか?」

やけに改まった口調のそれに、自然と背筋が伸びていた。

なにが待ってるの?

お願いだから余計な前置きとか、緊張感を与えるのはやめてほしい。

そんな風に思いながら膝に乗せたショルダーバッグの紐を握り絞めていると、やがて、問われた。

「このまま治療を続けるか否か、決めていただけますか」

「――それは……」

「はい……?」

「……それは、私は、治療しようがしまいが、おんなじって意味ですか?」

ストレートに質問し返すと、仲代先生はぐっと黙り込んでしまった。

いつかのように不馴れで気まずい沈黙が、診察室を押し包む。

「――とあるところに、生まれながらにして病弱な少年がいるとするわ」

と、そして彼女は突然、わけがわからない切り出しで静寂を破った。
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