赤いエスプレッソをのせて
右、左、もう一度右と、まるで横断歩道をわたる基礎みたいに左右を確認した彼は、

「――じゃあ、お願いをひとつ聞いてくれるなら、僕はここからすぐに退きます」

「お願い?」

カチンと来た。

なんてふてぶてしいヤツだろう。

私はアンタを注意しただけだってのに、どうしてそのアンタからなにかお願い事されなきゃなんないのよ。

都合のいいことばっかり言ってんじゃないわよ、もう。

そんな私の心の怒りなんてお構いなしに、彼は突拍子もなく、言った。

「お手数なんですが、僕を殺してもらえませんか?」
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