赤いエスプレッソをのせて




歩くのは繁華街。レストランやらショッピングセンターやら、なんでもありのアーケード。

ヤマヒサショウジ
山久尚司――それが私の手を引く彼、チューリップの中で寝ていた男の名前。

一言で表現するなら、変人だ。

だって、髪は赤いし、ヤンキーかと思えばそうじゃないし、自分をしがない絵描きって言うし……そして、殺してくれ、なんて言う。

だから彼は、変人。

その変人に、私は今連行、いや、誘拐――違う、拉致……でもない、そうだ、デートをさせられていた。

(なんだってのよ、コイツ。ねぇ、千代?)

心の中だけで訊ねながら、私は山久に手を引かれていく。

何度か反抗しようとしたけど、山久はヒョロヒョロした体格のくせにバカみたく力が強くて、振りほどけやしなかった。


デートっていうのはまさにデートで、別にヤマシイとことかに引っ張り込まれることはない。

さっきだってアイスを食べただけだし、その前には花屋で、カーネーションをひとつ買ってもらった。

母の日じゃあるまいしって思うけど。

殺してくれるお礼だとかなんだとか。

勝手に決めつけて、山久は話を、デートを進めていく。
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