赤いエスプレッソをのせて
なんでデートなんか……そう訊ねたら、死ぬ前の思い出に、と笑顔ながらに言うもんだから、二度三度驚かせられる。

「ねー、ちょっと」

と、いい加減歩き疲れて呼び掛けると、私の手を話さないまま、彼はくるりと振り返った。

真っ赤な髪にとぼけた表情、やけに紳士的な口調で山久は言う。

「なんですか? あ、そろそろ殺してくれますか?」

「ばっ、バカっ」

ただでさえ人が多いアーケード内で、なにを突然のたまっちゃってんのよ、コイツ。

ただでさえ目立つ頭してんのに、そんなこと言ってんの周りに聞こえたら、私までどういう目で見られるか――。

「そんなんじゃないわよ、ただ、疲れたから休みたいだけ」

「そうですかそうですか、じゃあどこか適当なところに座りましょう」

言って、彼はカフェテラスをさっさと見つけると、私をそこへ引っ張っていく。

店員よりも先に椅子をスッと引いて、どうぞ、なんて促す仕草は本当に紳士だ。

『ニューヨークの恋人』とかいう映画を思い出させてくれる。

ま、髪の色は別だけどね。
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