赤いエスプレッソをのせて
「僕にはコーヒー……あ、エスプレッソを。彼女には――」

「オレンジジュースでいいわ」

「――を、お願いします」

ウェイターへの注文を終えると、彼はテーブルの上に指を組んでニッコリとした。

「オレンジジュースが好きなんですね」

「私じゃないわ」

と、即答した。そう、私が好きなんじゃない。

千代が、オレンジジュースを好きなんだ。

千代はいつも、オレンジジュース。

母さんと買い物に出掛けて、なにか飲み物を買ってもらう時、私はいろんなものを飲んでいたのに、千代はどんな時でも、オレンジジュース。

百パーセントとか、そういう果汁の割合こそきにしてなかったけど。とにかくオレンジジュースが好きだったのだ。

そんな彼女を殺した私がそれを飲んであげなくて、いったい誰が、オレンジジュースを飲むのかしら。

これは私の、言わば義務・責務みたいなものだ。
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