赤いエスプレッソをのせて
十年前に、強盗発砲殺人事件があったらしい。

まだ八歳だった私にとって、ニュースなんてつまらないものだったから覚えてないけど、当事者にとって年齢など関係ない。

十四歳だった彼は、家へ押し入ってきた強盗に、両親と姉を殺されたらしい。

本人はそのとき姉にどやされ、一目散に逃げたおかげで助かったらしいが……

三人組だった犯人のひとりが逃亡に気付いて撃った銃弾が右肩に当たって、今でもその傷は残っているそうだ。

そして家族は、皆殺しにされてしまった、と彼は言った……。

今ではもうとっくに犯人は捕まって終身刑に処されたそうだけど、自分の傷は全然癒えていないと言う。

私が、弾が当たったところはもう平気なんでしょ、と言うと、彼は苦く笑った。

「体は大丈夫ですが、心が少々ね」

ああしまった、と後悔した。
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