赤いエスプレッソをのせて
そう……体の傷は時間が来れば治る。

たとえあとが残ったにしても、それはもう、痛くもなんともない、ただの傷跡。

だけど、心に入った亀裂は早々、時間だけじゃ修復されない。

なんらかの区切りがつくまで、決してなくならない。

それを私は、鈍感にも訊ねてしまったのだ。

ったく、私ったらしょうのないヤツ。

「それで? ……まさか、そのことを延々十年間も引きずっていまさら、死にたくなったなんて言うんですか?」

冗談でしょうと付け加えてやりたい私に、彼はほんとに自分でも馬鹿げている様子で、

「ええ、ご名答。その通りなんです」

ときたもんだ。

本当、呆気に取られてしまう――と同時に、ならいっそお望み通り殺してやろうか、と、私は隣の客のテーブルにあるナイフとフォークを一瞬、ちらりと盗み見た。
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