赤いエスプレッソをのせて
時々、さびしいの? と鏡の彼女へ訊ねると、千代はただ黙って静かに、私を見つめる。

今までずっと、恨みがましい目でしかなかったそれが、ふと、なんの色も浮かべなくなるものだから、実際気味が悪い。

だから、彼女が私にいったいなにを言いたいのか、完璧にはわかりきってないし……わかる日が来るとも思えない。

「はぁ、もう付き合ってらんないわ。私ちょっと出掛けるからね」

起きてからずーっと、下着にワイシャツだけという、いわゆる『男のロマン』みたいな格好でいた私は、外に出る段階になってようやくジーンズを履いた。

シャツの上から、薄手のカーディガンを羽織る。

もうすぐ五月だというのに、どうしてか時々ヘンに寒い日があるんだ。今日も、そういう天気だった。

おっといけない。このまま出掛けちゃあお金が払えないじゃないか。

焦りすら覚えながら、財布が入っているショルダーバッグをひっ掴む。

それから、私は玄関前にまたひとつある姿見を眺め、そこにいる妹へ言った。

「今日の帰り、たぶん遅くなるわよ。それでも……ついて来んのね?」

彼女は、なにも答えなかった。
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