9歳差は、アリですか?
嫌だ。コロンなんか嫌いだ。
浅岡は隣にいると微かに分かるくらいの淡いシャンプーのすっきりとした香りがしていた。そして、立原の家に来ると立原が焚いていたアロマのグレープフルーツの香りが少し混ざって、帰り際のたまにするキスの時の香りが一番好きだった。笹山と全然違う香りだ。

「離れて下さい!」

力いっぱい笹山の胸を押した。嫌だ。浅岡にさえ抱きしめてもらった事ないのに。

「立原さん?」
「すみません、無理です。あたし…好きな人いるので」
「そうか、それって付き合っている訳ではないということだよね?俺がアプローチ掛けてその人から俺に路線変更できるって望みはあるかな?」

ある訳ない。

「すみません、本当に。課長とは付き合えません。あたし凄くその人が好きなんです。初めてちゃんと本気で好きになれて、一緒にいたいって思ったんです。だから、課長は無理です」
「それって俺が30いってるから?」
「違います」

そうではなくて、年齢はどうでもいいのだ。

「9歳差がアリなだけです」

笹山の前で初めて表情を和らげた。浅岡より高い位置にある笹山の目をしっかりと見据える。

「9歳差…?ーーー結構上だね」
「そんな事ないですよ。年上でも…年下でも好きになっちゃえば」

年齢なんてどうでもいいくらい、いくら下なんてどうでもいいくらい悠くん会いたい。好きなのだ浅岡が。
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