いと。
「…ムリすんなよ。」
「わかってるよ。薫がいるから大丈夫。」
結局2週間ほど薫のマンションで生活し、私は自宅マンションに戻った。
荷物を運んでくれた薫をエントランスまで見送りながら手を繋いで歩く。
季節はもう夏をハッキリと感じるように暑い空気が漂っていた。
「今夜、お店行ってもいい?」
療養中を理由に禁酒を言い渡されていた私は薫のお店に行くことも許されずずっと大人しくしていて、久しぶりに彼の作ったお酒が飲みたいと思った。
「…仕方ないな。そんなに呑みたいの?」
「やだなぁ、もう。お酒が飲みたいわけじゃなくて薫のお店で薫が作ったのが飲みたいの。」
微笑みあって歩いていると、ちょうど外に出たところで、薫の足が止まった。
「…薫?」
その表情は真っ直ぐに真摯に私を見つめていて、視線を離せなくなった私はその精悍さに思わずどきりとしてしまった。
「なぁ、愛。」
繋いだ手はそのままに、私の名前を呼ぶ声を静かに響かせる薫。
「……何?」
「あのさ、俺………いや、やっぱりいい。
今度にするよ。」
「……う…うん。」
薫が何を言いたかったのか、とっても気にはなったけど…。
『今度』という言葉とともに笑顔を浮かべた彼に、私はそれ以上なにも言えなかった。