いと。

結局、完璧な笑顔を向けられ有無を言わさず席につかされる。

「…結構強引なんですね。意外でした。」

率直な感想を口にしながらグラスや氷を出す仕草を見ていると、多久島さんはクスリと笑みを浮かべて私を見た。

「…まぁね。

欲しいものには全力尽くすタイプだし?

この店だってそう。全力尽くしてやっと手に入れた。今の俺の大事な大事な、全てだよ。」

真剣に店内を見渡す眼差し。若いうちに店を出すなんて大変な苦労があっただろう。


その様子を見ていてふと、頭にはある人物が浮かんだ。


そうだ、あの人だって………


「……眞城さん?どしたの?」

一瞬遠くを見るように視線を流した私に気づいた彼が気遣うように優しく問う。

「あぁ、いえ。何でもないです。」

営業スマイル全開でそう返すと彼は困ったような笑顔を浮かべてこう言った。

「ここにいる時はその笑顔いらないよ。仕事じゃない君が見たい。」

「………………」


『仕事じゃない君が見たい』


なんてストレートに言ってしまうんだろう。

そんな風に言われたらときめいてしまう。

もしかして…お酒を飲ませたら落とせると思われているんだろうか?

「ま、とにかく飲んで食べて行ってよ。

カクテル作るし。何がいい?」

「……………」

「ははっ、大丈夫。酔わせて頂こうとか思ってないから。お酒弱いなら軽めの作るよ?」

……明るい笑顔。

本当に、ステキな人だ。

どうしよう。このまま一緒にいたら惹かれてしまいそう。


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