いと。

「……愛。」

リビングに入ってきた薫は一瞬でキッチンにいた私に気づき、視線を向けた。

それなのに私は…、顔を上げることさえできなかった。

「……かお…る。」

俯いたまま呟くようにしか出ない言葉は私の心の弱さそのもので、やっと会えた喜びさえ別れを告げられるんじゃないかという不安に打ち消されそうだった。

「………愛。こっち、おいで?」

「………っ。」

薫の声はやっぱりいつでも甘く低く胸に広がる。

それは…床に張り付いた足を彼に向けるには十分な力を持っていて、私は不安を抱えながらも吸い込まれるようにその愛しい人のそばに行った。


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