いと。
「………いいよ、好きにして。」
落ち着き払った声が耳に届く。それを合図にするように、オレの動きは止まった。
首筋を味わおうとしていた唇も、身体中を撫でようとしていた手も、抵抗をムダなものにする足も。
「……………。」
「あなたの好きにすればいい。抱きたいなら抱けばいい。
でも…だからってあなたのものには絶対ならない。」
「………っ!」
視線を合わせようと見つめたその瞳は、まっすぐに…『どこか』を捕らえていた。
その先に、見ているのは………
そう思うと、もう嫉妬が溢れて止まらなかった。
「…そんなにあいつがいいのか?
…………なぁ、あいつには子供が!」
「そんなことわかってる!」
オレを映すことなく瞳を閉じた表情は静かで、もう誰のものにもならないと言っていた言葉を思い起こさせた。
「なっ…!」
「そんなことわかってるよ。
薫が愛情を注ぐのはあの子。そうじゃなきゃいけない。
薫も、…薫の家族もそれで幸せになれる。
もし薫が私を選んでいたら、誰一人幸せになれない。
もう心の中で決着は着いてる。
ちゃんと、納得してる。」
もう誰も、彼女の心には入り込めないような気すら漂う強い決別の表情。
「………愛。」
無意識に呼んでしまった名前に反応して視線がピクリとこちらに向けられ、その表情は悲しく歪んだ。
「やめてください。そんな名前、呪いでしかない。
その名前をつけられた時点でもう、一生愛してくれる人なんかいないって決まってたんです。
そういう運命を持たされたんです。悔しいけどあの人の思惑通りに。
それでも………少しの間でも薫に愛されたし、私も本気で…愛した。だからそれでいいんです。
もう十分。
これ以上は欲しくない。
だから残りの人生はひとりでいい。」