いと。

「………お、かあさん。」

いつものように窓辺に腰掛ける母におそるおそる声をかける。

いつ来ても、私を覚えているかそうでないかこの瞬間が一番緊張する。

「…………ああ、いと。………よく来たわね。」

母は、笑顔で迎えてくれた。

最初の沈黙は私を思い出すため、次の沈黙は娘だったっけと思い出すためのものだ。

「ふふ、元気そうね。こっちいらっしゃいよ。」

この日は終始、母はご機嫌だった。


< 384 / 561 >

この作品をシェア

pagetop