いと。
「………若造が。何を企んでいる?」
やっと何かに気づいた父が兄に鋭い視線を向ける。
すると兄は、なにかの書類をバサリと父がふんぞり返るデスクの上に放った。
「…これは…………なっ!」
それらを見た父の顔色はみるみる赤く変わっていく。
「株主様がたの委任状です。言わなくてもおわかりかと思いますが、今月の総会のものですね。3分の2以上ありますよ。
『会長である戸澤要氏に一任する』
そういう内容です。」
要…は祖父の名前だ。つまり、株主たちの多くが議決の決定権を祖父に一任したということになる。
これで、父の自分勝手な馬鹿馬鹿しい経営は終わりを告げることになるんだ。
「………亨、諮ったな。親父の差し金か。それともお前が権力を手にするためか!?」
怒りに震える父はイスの肘掛けを指が食い込むほど掴み叫ぶように兄を批難する。
「…差し金とか、権力とか…それしかないのか?
父さん自身のやり方に、NOって言ってるヤツらがそれだけいるんだよ。
爺さんはだいぶ回復してる。…知らなかったろ?見舞いにすら言ってないもんな。
『相変わらず』っていう報告を真に受けてたんだよな。
その総会で復帰できるよ。亨と一緒に。
もう終わりだ。自分がいかに滑稽な王様だったか、思い知ることになる。
それが嫌なら自分から辞任するんだな。」
これまでの鬱憤を晴らすように詰め寄る。
もう、これまでみたいに大人しくしている理由もなかった。
「曜!お前……!お前もグルか!?」
「気づくのが遅すぎたな。俺の役目はあんたの懐であんたがオモチャで遊ぶのを見ながら目隠しをすることだった。
亨はその水面下でじいさんの力を借りながらこの日を迎えるための準備をしていた。
…何年もかけてな。
それもこれも、あんたがホテルを好き放題してメチャクチャにしたからだよ。
…………亨。」
言いたいことを吐き捨て、兄に向き直る。
「せめて『兄貴』だろ?
心配すんな。この人にはもう求心力はない。あとは俺が引き受ける。
お前の人生にも、関わらせないと約束するよ。」
…兄貴の顔は穏やかだった。