いと。

ーチリンー

「…いらっしゃいませ。」

また来た。こいつは一体何の目的で近づいてくるんだ?

「ジントニック。」

「どうぞ。」

「……早いな。」

「いつも同じものをお召し上がりですからね。」

「…なるほど。」

正面に座った男はグラスを弄びながらじっと壁の時計を見つめていた。

「……あれはLINKで?」

………やっぱり。LINKに行ってたか。

「ええ。私の恋人が選んだんです。この店にはコレだと。」

最高の笑顔を作ってワザと愛との関係をチラつかせる。

ほんの軽い牽制だ。

「へぇ。

…私のベッドサイドにも、彼女が選んでくれたライトが置いてある。食器もいくつかね。

今度家に呼んで一緒に料理でもしようかと…」

「あなたの目的は?」

話を遮って一瞥をくれてそう尋ねると、その男は挑戦的な視線でまっすぐに俺を向き、グラスをことりと置いた。

「………彼女の父親が動いているんだろう。何を言われてここにきた?」

フツフツと湧き上がる嫌悪感と怒りのようなものをできる限り隠し、冷静に問う。

するとその男はまるで嘲笑うかのようにこう言った。

「彼女の父親?

…さぁ、そういえばまだ会ったことないな。

オレはただ貰うだけだ。

………『アイちゃん』をね。」

「なっ!?」

「薫さん!」

バンと音がするほどにカウンターを飛び出しそうになり、雄太に止められてハッとした。

………ダメだ。感情に流されるべきじゃない。

今度はハッキリと浮かんだ怒りを、拳を握り堪えているとその男は席を立ち、札を置いて立ち去ろうと背中を向けた。

「カネをもらう気はない。あいつから手を引け。自由を奪うな。」

「………いや、それは約束できないから代金は払うよ。」

腕を強く掴む雄太の手を払うように放し、一呼吸置いて睨みつける。

「お前…名前は?」

「………戸澤 曜(よう)。

じゃあまた。……多久島 薫さん。」

勝負はついているとばかりに自信気に冷たく笑って店を出たあいつはやはり俺を知っていた。

でも……、だから何だ。

愛は絶対渡さない。


あいつは…俺のたったひとり『愛しいひと』だ。


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