常務サマ。この恋、業務違反です
「お前の報告……。『スタッフがたかってた』と『社員の間のセクハラ疑惑』だったよな。
裏付け証拠を求めるなら別の社員当たるべきだろ。
それとも何? もっともっと親しくなって、高遠さんに直接真偽を聞き出すつもりなのか?」

「それは……! ……確かに無理に決まってるんだけど」

「だったら、これ以上高遠さんに接近する必要ない。むしろこの辺で制御しておけ。
あんまり深入りすると、後々ろくなことにならなそうだし」


加瀬君がそう言ったタイミングで、メインのパスタが運ばれた。
お互いの前に湯気の立つパスタのお皿が置かれるのを眺める沈黙の間、私は加瀬君の言葉を自分の中で噛み砕いて考えていた。


深入り。制御。その微妙なラインの匙加減が判断出来ない。


店員がテーブルから離れていくと、加瀬君は早速フォークを手に取った。
そして、美味そう、と声を上げて、フォークにくるくるとパスタを巻きとって行く。


「お、上手い! 迷ったけどこっちにして良かったわ。お前の春キャベツとアンチョビの方はさっぱりしてて美味そうだな」


食べ物を前にして、面白味のない話は無粋だとでもいうように、加瀬君はいつものテンションで振舞う。
そんな加瀬君についていきたくても、私の心には高遠さんが引っ掛かっていてどうしてものり切れない。


「……食えよ。冷めるぞ」

「……うん」


言い聞かせるように促されて、私もノロノロとフォークを手に取った。
そして、数本のパスタを巻きとって、小さく口に運ぶ。


そんな私を正面から窺い見て、加瀬君は一瞬黙り込んでから、ハアッと小さな息をついた。
そして、意を決したように顔を上げて、私の名前を呼ぶ。


「もしかして、もう手遅れか?」

「え?」


何を聞かれたのかわからず、私は惰性で顔を上げて首を傾げた。
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