常務サマ。この恋、業務違反です
高遠さんが執務室に戻って来たのは、午後三時を過ぎた時だった。
入って来るなり小さく息を吐いてネクタイを緩ませて、そのまま上げた目線で私の姿を捕えて、一瞬わずかに目を見開いた。


「なんだ……。いたのか」

「お疲れ様です。いたのか、って……まだ業務時間中だし、留守番を命じたのは高遠さんじゃないですか」

「そうだっけ」


朝、自分が放った命令を全く覚えていないような言い方に、私は苦笑した。
私がどんなに悩んだかなんて、きっと心の片隅でも気にしていなかったんだろう。


私の前を横切って自分のデスクに向かう高遠さんを見遣ってから、私はデスクの上でギュッと手を握り締めた。
そうして、緊張を静めるように大きく息を吸った。


「あの……。昨夜はすみませんでした」


椅子に座った高遠さんが、チラッと私に視線を向ける。
それを意識しながら、私は手に力を籠めた。


「何のこと?」

「高遠さんの意向を確認せずに、国際部の二人を誘ってしまったことです」


早口でそう返事をしてから、反応を窺うように横目を高遠さんに向けた。


「……ああ」


否定されないから、わかってしまう。
高遠さんは私と二人でって意味で誘ってくれたんだってことを。


その意味を深読みして、ドクンと心臓が音を立てた。
それでも、私は気付かないフリをする。


「でも、二人とも楽しんでくれました。今までの高遠さんのイメージが変わった、とも言ってて……」


明るい声で伝えると、そう、と短い返事が返って来る。


「……はい」


私が伝えるべき言葉はそれだけ。
私はそのまま黙ってパソコンに視線を向け直した。高遠さんは黙ったままだ。
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