常務サマ。この恋、業務違反です
『そうか』でも、『なんだそれ』でもいい。
一言でも言ってくれたら、この会話は自然に切り上げることが出来るのに。
高遠さんはデスクから身体の正面を逃がした角度で、腰を下ろした椅子をユラユラと揺すっている。


「……あの、コーヒーでも淹れますね」


無理矢理この場の空気の流れを変えようとして、私は軽く腰を浮かせた。
なのに、いい、と短い制止の声に、立ち上がれなくなる。


私から視線を外したままの高遠さんが何を考えているのかわからない。
それでもこれまでのように勢いで踏み込むことも出来ず、私は次にどんな行動を起こせばいいのかわからない。


「……俺の意向を無視した。それを謝ることは出来るのに、詫びる行動はとらないんだな」

「え……?」


相変わらず私には視線を合わせずに、高遠さんがそう呟いた。


「普通だったら……。次回の埋め合わせの提案でもしてくるもんだと思うんだが」


静かにそう付け足してから、高遠さんが椅子ごと身体を私に向けた。
そして、腕組みしながら斜めの視線をぶつけて来る。


「そ、それは……」


何を求められているのか直感して、私は口籠った。
そのまま俯く私に焦れたような溜め息をついて、高遠さんは長い足を組み換えた。


そして、向けられた言葉。


「あの男……。あんたのなんなんだよ」

「え?」


突然の質問が、一瞬なんのことだかわからなかった。


「昨日の昼間、来てた男。……この間も見掛けた」


律義に言い直された言葉に、思考を巡らせるまでもない。
昨日の昼間、というキーワードで、誰のことを言ってるのか合点した。
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