常務サマ。この恋、業務違反です
高遠さんの執務室は同じフロアの南側の片隅にあった。
小さな個室のドアがいくつか並んだ廊下の一番端の角部屋。
きっとこの個室は、全部エグゼクティブと名のつく重鎮達の執務室なんだろうと思う。


人事部長はなんだか妙に強張った表情でドアを開けた。
そして、意を決したように振り返って、私を中に誘う。
たとえ期間限定でも、私の職場は今日からここなんだ……と気を引き締めて足を踏み出したつもりが、


「……!?」


絶句して立ち竦んだ。


「じゃ、すみません。私はこれから新人研修で挨拶する予定がありますので……」


私の反応を確かに見ていたはずなのに、人事部長は手の平を返したようにさっさと背を向けた。


「ちょ、ちょっと待って……」


慌てて振り返った時には、人事部長は私を執務室に置き去りにして、バタンと音を立ててドアを閉めていた。
一人取り残された私は、たった一人の為の執務室だと思えば十分な広さの室内で、呆気に取られて途方に暮れた。


確かに、説明は受けたけど。今日一日じゃ終わらない、とも言われたけれど。まさか、これほどとは!


向かって右側の壁一面に据え付けられた書棚には、沢山の書籍やファイルが詰め込まれていた。
大きな窓ガラスを背に立派なデスクが鎮座している。
そしてその横に直角に置かれた小さめのデスク。
それが秘書としての私のデスクになるんだ、と理解した。


だけど、そのデスクの上に結構な高さの書類が積まれて何列もの山を作っていて、仕事で使うはずのパソコンは完全に埋もれてしまっている。
< 13 / 204 >

この作品をシェア

pagetop