常務サマ。この恋、業務違反です
「私、高遠さんのこと、好きだから」


言った瞬間、落ちた、と感じた。


ギリギリのラインで必死に踏み止まっていたのに、いきなり足元が崩れたような、崩されたような。
重力に負けて落ちてしまえば、行きつく先はただの一か所しかない。


「っ……」


高遠さんは私の言葉に目を丸くして、ゴクッと息を飲んだ。
その反応を見て、何故だか妙に達成感を感じた。


「……すみません。言いたいことはそれだけです。……明日からは私を避けたりしないで下さいね」


一生懸命笑顔を作って、高遠さんに軽く頭を下げた。
そして背中を向けて、今度こそマンションに真っ直ぐ帰ろうと一歩足を踏み出す。


「ちょっと待てっ……」


焦ったような声が私の足を止めた。
振り返る前に、後ろからギュウッと抱きしめられた。
ドクンと心臓が騒ぐと同時に、高遠さんが私の肩に顔を埋める。


「……マジで?」


耳元で聞こえる不信気な声に、私はわずかに首を動かした。
頬に高遠さんの髪の感触が伝わってくる。


「冗談でこんなこと言えませんよ……」


拗ねたように頬を膨らませて呟くと、ハハッと乾いた笑い声が聞こえた。
そして、身体に回された腕に力が籠るのを感じた。


「……良かった……」


安堵に満ちた振り絞るような声が聞こえる。
私は高遠さんの腕に両手を掛けて、顔を埋めた。
背中をその胸に預けると、高遠さんが私を抱え直して更に力を強めるのを感じた。


何もかもが完璧なエリート。
それがみんなが知ってる高遠さんの姿。


でも、私は知ってる。
本当はとても不器用で、シャイな一面があるってことを。
そんな高遠さんが、今とてもとても愛おしい。


なんとも言えない淡い熱情が胸に充満していく。
この強い腕に抱きしめられる幸せに、私はそっと目を閉じた。
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