常務サマ。この恋、業務違反です
新庄さんも山田さんも、相変わらずテンション高くオフィスビルまでの地下通路をのんびりと歩いている。


いつも明るく楽しい二人と過ごすのは楽しい。
でも今の私の心の中には、どんよりとした罪悪感が沸々と音を立てて燻っていた。


このまま契約満了を迎えて本来の仕事に戻っても、付き合い続けるのが難しい訳じゃない。
だけど、いろんな嘘を重ねることになる。


今でさえこんなに胸が痛むのに、これ以上どう平気な顔しろというんだろう。
そしてそれ以上に、もし私が現れた理由を知ったら航平はどう思うんだろう、と考えたら、どんどん気持ちは重くなって行く。


二人の会話をぼんやり聞きながら、前方に見えて来た総合エントランスを意識して、私はバッグからIDカードを取り出した。
自動改札に向かって一歩足を進めた時、私が向かっているまさにその方向から、航平が歩いて来るのが見えた。


周りにいるのは白髪混じりの立派なオジサマやロマンスグレイの外人で、ウェイカーズの重鎮達だというのは私でも一目でわかる。
そんな中、一際若くて堂々とした姿が若きエグゼクティブの貫録十分で、私は思わず立ち止まった。


そんな私に気付いて、航平が「あ」と口を丸くした。
そして、周りの紳士達に一言掛けてから大股で私に近付いて来た。


「希望、良かった。デスクにメモ残して来たんだけど……」


そう言いながら私の前で立ち止まってから、航平は口を噤んで私の少し後方に目を向けた。
そして、咄嗟に口元を手で隠しながら、


「……葛城さん」


と呼び直す。
ハッとして振り返ると、数歩後ろで新庄さんと山田さんがニヤニヤしながら私達の様子を見守っていた。
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