常務サマ。この恋、業務違反です
「が、外出ですか?」


慌てて取り繕いながらそう訊ねると、うん、と短い返事が返って来る。


「急遽予定が入って、一時間程留守にする。次の予定には支障はないはずだけど、もし戻れなければ対応を頼む」

「わかりました。行ってらっしゃい」


軽く頭を下げると、航平はわずかにはにかんで笑った。
そして私の横を大股で通り過ぎて、先を進む重鎮達に追い付いていく。


その一部始終を遠巻きに眺めていた二人が、ニヤニヤしながら私に駆け寄って来た。


「……『希望』だって」

「言い直す辺りが、ちょっと秘密っぽいよね」


やっぱり聞かれてた。
意地悪に覗き込む二人の視線から逃げるように、私は一歩先に進んだ。


「ほら、仕事! 仕事!」


半分自分に言い聞かせるようにIDを翳して改札を抜ける。
小走りに追って来た二人は、まだからかい足りないのか、私の前に軽く回り込んで来た。


「な、何?」


進行方向を遮られて、少し怯みながら立ち止まる。
そんな私に、二人はニコッと笑った。


「高遠さん、思わず素で呼んじゃったって感じだったよね」

「あ~! 羨ましい! 超ラブラブじゃないっ」


大袈裟に溜め息をつくと、二人は立ち尽くす私を置いてさっさとエレベーターホールに向かって行く。
慌ててその後を小走りで追いかけると、△ボタンを押した新庄さんが私を振り返った。


「心配しなくても、もう一つの選択肢、高遠さんは考えてるかもしれないね」

「えっ……」


さっきまでの会話を思い出して、引っくり返った声が口を突いた。
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