常務サマ。この恋、業務違反です
クスクス笑いながら私を追い越した山田さんが、一番先にエレベーターに乗り込んだ。


「そうなったら海外ウェディングかなあ。そりゃそうか。高遠さんのご家族って、海外だもんね」


『開』ボタンを押して私達を待ってくれながら、山田さんはほおっと息を吐いた。


「ちょっ……! 飛躍し過ぎ!」


先走る二人の妄想が嬉しかったけど、私は俯いてそう言い返した。
え~、と焦れたような声を発する新庄さんが最後に乗り込んで、山田さんは『閉』のボタンを押す。


「そうでもないと思うよ。だって、私達今まで高遠さんのいろんな噂聞いたけど、それってあくまでも『噂』でしかなくてね」


狭い空間の中で三人だけになって、山田さんが軽く私を振り返った。


「時々社内で見掛ける時でも、あんな柔らかい表情してるの見たことなかった。
この間も思ったけど、さっきの高遠さん見たら、もう絶対。
葛城さん、本当に愛されてるよ」


思い掛けない言葉に息を飲んで、私はカアッと赤くなった。


「山田さんっ!」


咄嗟に声を上げると、新庄さんも私の隣で頷いていた。


「大丈夫! 自信持って愛されなさいよ。山田さんだけじゃなく私から見ても、葛城さんは高遠さんにとって一番の女だからっ」


言いながらVサインを向ける新庄さんに、私はドキッとして口を噤んだ。
俯く私が照れていると思ったのか、二人は意味深にフフッと笑いながらそれ以上は言わずに黙った。


新庄さんに言われたことが心に大きく引っ掛かっていた。


『自信持って愛されなさいよ』


出来ることなら、私だってそうしたい。


だから私は……。


俯いたまま、身体の脇に垂らした手を無意識にギュッと握り締めていた。
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