常務サマ。この恋、業務違反です
ああ、と呟いて名刺を受け取ると、航平も加瀬君に名刺を差し出した。


「ウェイカーズの高遠です。初めまして。……葛城さんには、いつも助けられています」

「え。アイツが?」


深窓のエグゼクティブを相手に緊張しているのか、加瀬君が目を丸くしてポロッと口を滑らせた。


その声に慌てて、私は二人に駆け寄った。
軽く上着の裾を引っ張ると、加瀬君もハッとしたように口を閉じる。


「高遠さん、留守番中だったのに出て来ちゃってすみません! 加瀬さんの用件は済んだので、私も直ぐに戻りますね!」


この間、加瀬君と二人でいるところを見られた時、航平がすごく不機嫌になったのを思い出して、私は一歩前に踏み出した。


あの時、航平は加瀬君に嫉妬したって言った。
航平の誤解を招いた相手と一緒にいるところを見られるのは、私の方が落ち着かない。


「いや、いい」

「え?」


横を通り過ぎて先に執務室に戻ろうとした私の腕をグッと掴んで、航平が私の歩を止めた。
驚いて振り返ると、航平はスッと私から手を離す。


「彼は仕事で葛城さんに会いに来てるんだろう? だったら思う存分仕事させてやれ。
私は次の予定があるから先に戻る」


素っ気ないその言い方と表情は、エグゼクティブとしての『表向き』の航平。
プライベートの航平の甘さを知ってしまっても、こんな表情を浮かべる航平を見れば、自然と背筋がシャキッとする。


「は、はい! ありがとうございます!」


思わず姿勢を正して、背を向ける航平に頭を下げた。
そんな私の隣に並んで、高遠さん!と、加瀬君が航平を呼び止めた。
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