常務サマ。この恋、業務違反です
ありがとう、と呟いてその腕に掴まって立ち上がりながら、私は大きく深呼吸した。


「俺の方がもっと緊張したって言うの。……って言うか、あれが高遠さんか……。何歳だっけ?」

「三十二歳」

「俺達の五つ上か。……なあ、葛城。俺も、五年も経てばあんなゴージャスな男になれるんだろうか」

「無理でしょ。ベースからして違い過ぎる」


遠慮なしに即答すると、加瀬君は一瞬私を睨んだ後、だよな、と呟いて肩を落とした。


「あんな……男から見てもパーフェクトな男がいるとは思わなかった。あれじゃ、誰だって夢中になる。
……スタッフが続かない理由だって、セクハラとは言わずともそれ絡みのトラブルに決まってる……」

「え?」


聞き返した私にハッとしたように、加瀬君は手で口元を押さえた。
そしていつもの明るい笑顔を作ると、私の肩をポンと叩いた。


「とにかく、明日。なんとか休暇取ってこっち来てくれ」

「う、うん……」

「あ。お前の方からは、なんか報告ある?」


自分心に抱えていることだけで、いっぱいいっぱいになっている様子がわかる。
私はグッと手を握り締めて、静かに首を横に振った。


「ううん」


そうして、航平が去って行った廊下を見遣る。


「……私も、明日ゆっくり話したい」


意識した訳じゃないのに、妙に声が強張っていることに気付いた。
そして加瀬君にも伝わったのか……。


「……わかった」


加瀬君は私から軽く目線を背けて、短い言葉で返事をした。
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