常務サマ。この恋、業務違反です
「内部告発が元だった。多分、報道される前に懸案されて、『容疑者』をあらかじめ調査しようとしてたんだと思う」


そういう場合疑いを向けられるのは、日頃から反骨心に溢れた危険分子。
そして、あくまで『部外者』の派遣社員だ。


派遣元の社員として悔しいけど、実際それが現状だ。
加瀬君の話を理解して頷きながら、今まさに自分が置かれた状況にハッとして、私は顔を上げた。


「ウェイカーズが不祥事沙汰を抱えてる……。そう言うつもり!?」


その上、私は何らかの疑いを被っている!?


私は動揺しながら立ち上がった。
加瀬君は顔を上げて私に手を翳して、落ち着け、と呟いた。


「こっちは捜査機関じゃないんだから、言及する訳にもいかない。
でも証券会社って言ったら、割と身近でマスコミネタになりそうな話もあるだろ?
馴染みがあるところでは、インサイダー取引とか。
組織ぐるみじゃなくても、末端社員が簡単に犯すことの出来る犯罪」


それなりに耳馴染みのある犯罪用語に、ドキッとした。


派遣スタッフとしてウェイカーズを訪れた初日……。
人事部長に書かされた誓約書が、まさにそういう内容だったことを思い出した。


「まさか。……そんな」


信じられない思いで呟くと、加瀬君も大きく息を吐いた。


「まさか、でいい。それはあくまでも俺達の勝手な推論だから。
だけど万が一そんな実態があるとしたら……葛城も俺もうちの会社も、巻き込まれることになる。
上はそういう事態を回避する為に、まず葛城を撤退させてから、正式にウェイカーズとの契約を見直す方針だ」


そう言って一度言葉を切ってから、加瀬君は私を上目遣いで見つめた。


巻き込まれる前に撤退しろ。


加瀬君の指令がやけにリアルに聞こえた。
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