常務サマ。この恋、業務違反です



加瀬君と営業部門統括の取締役専務が、菓子折りを持ってウェイカーズを訪れたのは、それから三日後のことだった。


今回の騒動の謝罪、部長の降格人事の決定を伝えた後、専務は人事部長に見送られて航平の執務室を出て行った。
その背中を見送って、私達は改めて視線を交わす。
いつもと変わらず、仕事中の航平はクールな姿そのものだけど。


「……一応聞いておきますけど、高遠さん、葛城に例の件話しましたか?」


平然とした声でそう呟く加瀬君に、一瞬航平の肩がビクッと震えた。
意味深なその反応に、私は首を傾げて航平を見上げる。


「何? 例の件って……」


航平に問い掛けるけど、呆気なく目を逸らされた。
そこから答えを引き出すのを早々に諦めて、私は向かい側に座っている加瀬君に軽く身を乗り出す。


「希望は知らなくていい」


腰を上げた途端腕で制されて、私は座り直すしか出来ない。
腑に落ちないまま首を傾げると、加瀬君がクックッと肩を揺らして笑った。


「……高遠さん。俺、これでも高遠さんよりも葛城との付き合い長いんですよ。
断言する。後でほじくり返されるより、絶対今言っておいた方がいいですよ」

「え?」


何やら意味深な加瀬君の言葉に首を傾げた時、私の隣で航平が深い溜め息をついた。
チラッと目線を移してみるけれど、航平は加瀬君の進言に従うつもりはないらしい。


そんな航平を見遣って、加瀬君は相変わらず楽しそうに笑いながら、ソファから立ち上がった。


「それじゃ、この辺でお暇します。あ、今後の件に関しては、社内協議にかけて逐一報告しますんで」


そう言って頭を下げる加瀬君に、私もつられて立ち上がる。


「……よろしくお願いします」


深く頭を下げた私に、加瀬君はニコッと笑った。
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