常務サマ。この恋、業務違反です
そう言って、あの白い封筒を未開封のまま私の目の前でシュレッダーにかけて抹消した。
そんな航平の態度が、私はとても嬉しかった。


これ以上、何を航平から聞き出せって言うんだろう?
思わず首を傾げた時、クッと笑いながら人事部長が執務室に戻って来た。


「あなたはどこまでもおめでたい人ですね。わからないんですか。そもそも、自分がスパイとして潜入することになった目的が解明されてないと言うのに」

「え?」

「佐藤さん!!」


いつになく航平に対して意地悪な態度に、私はただキョトンとした。
航平の反応を聞きながら、言われてみれば、と思い出す。


「それってなんですか?って聞いたら、教えてくれるんですか?」


意地悪な人事部長に探るように問い掛けると、航平がガタンと音を立てて立ち上がった。
それを見て、人事部長はフフッと肩を竦めて笑う。


「私の口からは申しません。部長の口からはっきりお聞き下さい」


なんだか含みを持たせるその言い方が妙に気になる。
報告を終えて執務室を出て行く背中を思わず呼び止めると、人事部長は僅かに振り返って口角を上げた。


「……年内には、部長のアメリカ栄転の辞令も出ます。そうなった時、日本に残るか意地でもアメリカについて行くか、判断する材料になると思いますよ」

「えっ……! あのっ……!」


思い掛けないその言葉に、一瞬聞き返すべき言葉を失った。
航平が一瞬慌てたようにその背中に呼び掛ける。
それでも人事部長は丁寧に頭を下げて執務室から出て行った。


私と航平の間に、微妙過ぎる地雷を落として。
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