常務サマ。この恋、業務違反です
「……航平」


思い切って声を掛けると、航平はドスッと音を立てて椅子に座った。


「仕事続けよっか」


明らかに誤魔化そうとしてるのが見え見えの姿に、私は黙ってジットリと目を向ける。
そんな私の視線を居心地悪そうに、航平は椅子をクルッと回転させた。


「気になる。航平、教えて。人事部長は何を私に含ませたの?」


デスクを回り込んで、航平の真っ正面に立ちはだかった。
航平はものすごく不本意な表情を浮かべている。


「別に、今となってはそんなこと知らなくてもいいだろう?
少なくとも、そっちが狙った通り、六月末でうちとの派遣契約は切れるんだから」

「でも、私個人として気になります! そもそも私はそれを掴む為にこんな業務命令に従った訳で……」


そう言いながら、一歩航平に踏み込む。
航平は軽く背を仰け反らせた。


「……航平を一人でアメリカに赴任させても大丈夫なのか……。人事部長が言ったのは、そういうことですよね?」


畳み掛けるようにそう訊ねると、航平は両手で顔を覆って大きく肩で息をした。


「……情けないから、言いたくないんだけど」

「え? これ以上?」

「これ以上、って言うな」


私の反応に眉間に皺を寄せて反論してから、航平は僅かに私から目を逸らした。


「……俺、歴代の派遣秘書に襲われたんだよ」

「……え?」


何を言われたのかわからなくて、私は大きく目を見開いた。
私の反応に、航平は不機嫌に顔を背けた。


「ある意味、希望んとこの部長が言った『セクハラ』も間違ってないんだよな。こっちの言い分としては完全に逆だけど」

「ちょっ……、それ、本当!?」


嘘で言えるか、と、航平は不貞腐れてそっぽを向いた。
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