常務サマ。この恋、業務違反です
そんなところがちょっと残念、と思いながら、私はキュッと唇を噛み締めた。
ブサイクになりそうな顔を上げることは出来ないけど、気持ちはだいぶ浮上していた。


「……次からは、日本語じゃない電話は全部直ぐに高遠さんに繋ぎます」

「うん」

「スケジュールに困ったら、高遠さんの判断に任せます」

「……うん」


完全に『秘書』業務を放棄するような言葉を放って、私は大きく息を吸った。
そして、ゆっくり顔を上げて、微妙な顔をしている高遠さんを真っ直ぐ見つめ返した。


「だから、私は整理整頓に徹します」


そんなことで時給千九百円を稼げるなんてどこまで美味しい仕事だろう。
自分でもそう思いながら、やけに胸を張って言い放った。


「この執務室を快適な空間にして……。夜中に仕事をした後でも、高遠さんがゆっくり眠れる場所に出来るように」


私は本当の『秘書』じゃないから、完璧な秘書にはなれない。
それでも、自分で宣言したことなら、私にだって出来る。やり通す。


超一流の男は、私が放った小学生みたいな挑戦に一瞬目を丸くした。
そして、口元を手で押さえながら、吹き出して笑った。


そんな笑顔を初めて見た。
そう思った次の瞬間、高遠さんはゆっくり腕組みして、小首を傾げて私にその瞳の焦点を合わせた。


「そうしてもらえると、助かる」


そんな言葉にキュンとして満足してしまったのは、私が秘書としては無能だから。


きっと、それだけだ。
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