常務サマ。この恋、業務違反です
総合受付から私宛に電話がかかってきたのは、その週の金曜日、ランチから戻って一時間ほど経った時だった。


この執務室で働くようになって、めっきり電話が苦手になってしまった。
電話が鳴る度に条件反射でビクッとする私が相当ツボなのか、高遠さんはいつもクックッと声を忍ばせて笑う。
そんな意地悪な上司を横目で睨みながら、日本語が聞こえたらホッとして対応する。
英語、もしくはそれらしい言語が聞こえて来た時は、『Just a moment,please』と超一方的に言い放って、忍び笑いを続ける高遠さんに繋ぐ。


ある意味すごく要領を得た役割分担で、高遠さんも私のミスを後でフォローするよりはマシだと思っているのか、特に不機嫌な様子もなく電話を替わってくれる。


そして今、電話が鳴っているというのに、高遠さんは週一定例の役員会議で離席していて、この執務室には私一人だ。


こんな時に~~っ!と、私はやっぱりビクッとする。
出ない訳にはいかないけど、もしまたドイツ語だったらどうしろと言うんだか。


そう言えばこの数日間、私がこの執務室に一人でお留守番ってなかったな……と思いながら、私は仕方なく電話に手を伸ばした。
って言うか、仕方なく、って。
いつも私を面白がってる高遠さんにムッとしていたけど、バックに必ず彼がいる状況にどれだけ救われていたか、なんて、今更ながら実感してしまう。


それでも、PHSを手にした時にはそんな不安は失せていた。
画面に表示されているのは数字四ケタの内線番号。
この東京本社の社内からだから、いきなりドイツ語が来る訳が無い。


「お疲れ様です、総合受付です。お客様がみえてます」


どこぞのウグイス嬢みたいな話し方にホッとしたのも束の間、私は慌ててパソコン画面に高遠さんのスケジュールを開いた。
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