常務サマ。この恋、業務違反です
「このまま今の会社に勤め続けて、それなりに昇進してたとえば定年を迎えるとするじゃない?
ずっと同じ仕事してるんだから、仕事知ってて当たり前。後輩や部下が出来て当たり前。
でもきっと、それが普通にすごいことだって信じたまま、私達って、ただ偉そうになっていくんだよね」

「……何? ストレスでおかしくなっちゃった?」


そう言いながら、加瀬君が私の目の前に手を翳してヒラヒラと動かした。
その手に焦点を当ててハッと我に返って、私はグッと背筋を伸ばした。


「あ、ごめん」


この数日で自分の社会人としての無能さに打ちひしがられた後だからか、ついポロッとそんな言葉が口をついた。
慌てて取り繕って謝ると、今度は加瀬君が私の言葉を考えるように、う~んと唸った。


「葛城が初めて違う会社で働いてみて、どう思ったか、ってのは理解出来る。
そりゃ、俺達ってうちの会社しか知らない。仕事の勝手も備品の発注の仕方も、企業風土ってものを知ってるから、辞めないうちはやり易いよな。
だから俺も、スタッフ紹介しながら凄いなって思うことあるよ。
この人達は会社に縛られずに、どこに行っても一から進む強さがある。
それって確かに俺達にはなかなか難しいことだし」


同じ派遣会社の営業担当として、加瀬君の言うことは私も共通して合わせ持っている意識だった。


働き方は人それぞれ。一生一つの会社で働き続けるのは立派なことだし、かと言って身一つで新しい会社を渡り歩くのも間違ってない。


「……私、英会話スクール通おうかな……」


こんなことでもなければ、とても本気でそんなことを考えたとは思えない。
つい殊勝な気分になってしまうのは、実際に私が全く高遠さんの役に立てていないと実感しているからだ。
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