常務サマ。この恋、業務違反です
加瀬君は私の溜め息を最後まで聞いてから、あのさ、と言い辛そうに呟いた。
顔を上げてその横顔を見つめると、加瀬君は一度キュッと唇を引き締めた。


「自分の能力を顧みるっていうのはいいことだと思うんだけど……。お前、ここにいる意味、ちゃんとわかってる?」

「え?」

「だから。葛城がここにいるのは、客観的に自分の能力を知る為じゃない。別に本気で秘書業務を身に付けて欲しい訳じゃない」


諭すようなその言葉に一瞬きょとんとして、そして私はハッとした。


「ここのエグゼクティブ……高遠航平……だっけ? 彼を探って調べてもらう為なんだけど」

「あっ……!! 当たり前でしょっ!?」


私を探るようにそう言った加瀬君に、私は慌てて声を上げた。


「そんなこと、加瀬君に言われるまでもなく、ちゃんと……!!」


そう答えながら、動揺している自分にもちゃんと気付いていた。


加瀬君に会ってからの私の言葉。
どれをどうとっても、完全に本来の任務がすっかり抜け落ちてしまっていたように聞こえても仕方がない。


「そうかな。水を差すようで悪いけど、うちの会社で今の仕事する上で、英会話はあまり意味が無いと思う」


加瀬君のくせに鋭い一言が、意味もなく私を慌てさせた。


「それは、仕事の為とかじゃなくてっ! ……別にいいじゃない、教養の一つとして始めてみようかな、って思っても」

「まあ、それは別にいいけどね」


ムキになる私に向けられるのは、やっぱり不信感丸出しの視線。
加瀬君といる時にはあまり感じない居心地悪さに、私は頬を膨らませてそっぽを向いた。
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