常務サマ。この恋、業務違反です
「……一応、潜入からもうすぐ一週間だけど。なんかわかったことある?」


少し気まずい空気は、きっと加瀬君も感じていることだろう。
いつもの加瀬君らしからぬ素っ気ない早口でそう私に訊ねて来た。


それでも、私は期待されている答えを何も持ち合わせていない。


潜入してからのこの数日。
普通に仕事をしているように見せるのも精一杯で、『探る』なんてことまで頭が回らなかった。それが本音だった。
それでも、完全に任務を忘れて過ごしていたとは思われたくなくて、私はちょっと迷った後で、意を決して唇を開いた。


「まだ証拠はないけど、その……噂は聞いた」

「どんな?」

「……もしかしたら、セクハラ?みたいな」


言い淀みながらなんとかそう答えた私に、加瀬君は、ふむ、と言って考え込む。
だから私は、初日に国際部の二人の女子社員から聞いた話をかなり端折って加瀬君にも聞かせた。


「……確かに、俺も訪問する度に彼女達がケバく……じゃなくて、垢抜けて行くな、とは思ってたけど……」


高遠さんがスタッフに対してセクハラ行為をしていた、と言うには、全く証拠はないし噂だけじゃ根拠は薄い。
考え込む加瀬君に同調して、私まで難しい顔で腕組みした。


「たった一週間で……? って言っても、一応まだお前は無事みたいだしなあ……」

「え?」


私を横目で見遣って、どこかしみじみとした口調でそう言った加瀬君に、私は腕組みを解いて顔を上げた。
私に向けられる視線に妙な憐れみのようなものを感じて、何度か目を瞬かせた。
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