常務サマ。この恋、業務違反です
帰り際、エレベーター前まで見送った私に、加瀬君は、あ、と呟いて私を軽く振り返った。


「今度さ、高遠さんの時間が取れそうな日程、教えてくれない? 今度こそ挨拶したいし」

「あれ。ここでの派遣スタッフは、私が最後になるんじゃなかったっけ?」


首を傾げて意地悪く突っ込むと、加瀬君もほんの少しムッとしたような顔をした。


「まあ、葛城に来てもらってるのは契約解除の為だけどさ。俺はウェイカーズの担当だし、お前のフォローは俺の仕事なの。三ヶ月間丸々放置って訳にもいかないだろ」


唇を尖らせてそう言った加瀬君に、私もクスクス笑った。


「頼りになるじゃん」

「お前ね……。俺をなんだと思ってる訳? あ、そうだ。葛城、今夜暇?」


加瀬君は不機嫌な表情を直ぐに押し隠して、左手首の腕時計に目を遣りながら私にそう訊ねて来た。


「恐らく、残業にはならない」

「じゃ、暇ってことだな。俺も早めに切り上げるから、飲みに行こうぜ」

「え~。ほんと、いつも急だね」

「だって俺達約束して飲みに行く仲じゃないし」


シレッと簡単に言って退ける加瀬君に、私も思わず苦笑した。
まあね、と笑いながら目線を爪先に落とした時、トーンの高い電子音が響いて、待っていた下りのエレベーターが到着した。


「大丈夫だと思うけど、一度メールする」

「ん。よろしく」


スッと音もなく開いたエレベーターに乗り込んで行く加瀬君に、私は一応それらしく深く頭を下げた。
エレベーターのドアが閉まるまでそうやって見送って、加瀬君の姿が見えなくなるとなんとなく肩を回しながらフロアに戻った。


腕時計に目を落として、ほんの五分のつもりが十分経過してることに気付いて、私の歩は速くなる。


いけない、高遠さんの会議っていつ終わるんだっけ。
そんなことを考えながら執務室に飛び込むと、会議を終えていたのか、デスクの向こうから高遠さんがゆっくり目線を上げた。
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