常務サマ。この恋、業務違反です
むしろそういう席に同行した方が、素の高遠さんを見れるかもしれない。
ここにきていきなり任務を意識して拳を握ると、高遠さんは私を無視して一見極普通の民家の軒先に立った。


「高遠様、いらっしゃいませ」


迎え入れてくれたのは、和服姿の品のある四十代くらいの女性。
高遠さんと私のコートを預かってくれながら、接待会場の個室に案内してくれる。


「もう来てる?」


高遠さんが、先に立って歩く女性に短くそう聞くと、はい、と短い返事が返って来る。


「十分程前に。先に食前酒をお持ちしました」

「そっか。サンキュ」


結構馴染みの客なのか、高遠さんの素っ気ない短い言葉にも、女性は穏やかな表情のままだった。
そして、通されたのは、個室にしては広い和室。


「航平!」


高遠さんが足を踏み入れた途端、ファーストネームでいきなりそう呼び掛けて、座っていた女性が立ち上がって高遠さんの首筋に思いっ切り抱き付いた。


え?と私は目を丸くして、そこから中に入れずに立ち尽くす。
当の高遠さんは、「Nice to meet you,Elliy」と、美し過ぎる発音の英語を口にして、抱き付いた彼女に軽く腕を回した。そして。


「……っ!」


ほとんど唇スレスレの頬に、チュッ、と軽いキスを交わし合った。
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