常務サマ。この恋、業務違反です
「たかってない。その……お弁当作って行って、差し入れてるだけ」

「……え?」

「一度やったら喜んでくれて、二度目はせっかくだから一緒に食べようって。それだけだから」


断じて私は高遠さんに一円たりとも払わせていない。
それだけは胸を張って言い切った。


「……お前、料理出来るの?」

「失礼な。今までは機会が無かったからやらなかっただけだよ。
……あああ~~、もう、とにかく! そういう経緯もあって、少しは高遠さんの懐に入り込めたよ。
高遠さんを油断させた方が、内部事情にも触れ易いでしょ」


言い訳するように加瀬君にそう言い募って、心がチクチクと痛んだ。


本当は、そんなことを考えて起こした行動じゃなかった。
それでもなんとなく……加瀬君にはあくまでも私が仕組んだ策略だ、と思わせておいた方がいいような気がした。
そうじゃなきゃ、この間と同じように、ちゃんと自分の任務をわかっているのか、って口を酸っぱくして言い募るに決まっている。


「……なるほどね。男を懐柔するには、まずは胃袋から、ってこと?」

「まあ、そんなとこ」


加瀬君らしくない単語のオンパレードに少しだけ引き気味になりながら、私は見えないとわかっているのに大きく頷いた。


「……わかった。それなら、実際に動くのは葛城だし、その手段は任せる、けど……」


溜め息混じりに言葉を切った後、加瀬君は声のトーンを一段階落とした。


「先週言ってたセクハラ疑惑はどうなったの?」


即座に返事が出来ない。
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